SkillStack Lab運営者のスタックです。
最近、ネットやニュースでAIに取って代わられる仕事として翻訳が真っ先に挙げられているのをよく目にします。
翻訳家はやめとけという極端なアドバイスや、翻訳はオワコンだという悲観的な意見を目にして、これから語学を活かして働きたいと考えている方は不安を感じているのではないでしょうか。
私自身、AIツールを日常的に触っていますが、DeepLの限界や通訳のAI化が進む中で、確かに従来の働き方が通用しなくなっているのは事実だと感じます。
しかし、詳しく調べていくと、単純に仕事がなくなるわけではなく、求められる役割が大きく変化していることが分かりました。
この記事では、AIに取って代わられる仕事としての翻訳の現状と、これからの時代に翻訳者が選ぶべき生き残り戦略、そしてリスキリングの具体的な方向性について、私なりの視点でお伝えしていきます。

- ニューラル機械翻訳(NMT)と生成AI(LLM)の進化が翻訳業界に与えた衝撃の正体
- 単価の下落やMTPEの普及という厳しい現実の中で生き残るための専門性の磨き方
- AIには決して真似できないトランスクリエーションという高度な創造的価値
- 2030年に向けて翻訳者が身につけるべきITリテラシーと新しいキャリアパス
AIに取って代わられる仕事である翻訳の現状
翻訳という職種がなぜこれほどまでに「AIに取って代わられる」と言われるのか、その背景には技術の圧倒的な進歩があります。
まずは現状を冷静に見つめてみましょう。
翻訳家はやめとけと言われる技術的背景
「翻訳家はやめとけ」という言葉の裏には、AIの精度が「人間と区別がつかないレベル」に達した領域があるという事実があります。
特に大きな転換点となったのは、2016年頃からのニューラル機械翻訳(NMT)の普及と、2023年以降のChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)の登場です。
特化型NMTと汎用LLMの融合
DeepLのような翻訳専用のAI(NMT)は、文全体をベクトル化して処理することで、驚くほど自然な文章を生成します。
さらに、ChatGPTなどのLLMは「文脈」を理解する能力に長けており、指示一つで文体を「カジュアルに」や「厳格な契約書風に」と自由自在に変えることができます。
この二つの技術が融合したことで、「単に意味を移し替えるだけの作業」は、もはや人間の仕事ではなくなりつつあるのです。これが、将来性に疑問を持つ人が増えている大きな理由かなと思います。

注意したいポイント
これまでは「英語が読める・書ける」というだけで仕事が成立していましたが、そのレベルの業務はほぼ完全にAIが代替可能な領域に入っています。
付加価値のない逐語訳は、経済的に成り立たなくなっているのが現状です。
翻訳の仕事がオワコン化する価格破壊の理由
「翻訳はオワコン」という言葉は、主にビジネスモデルの崩壊を指しています。
かつて翻訳は「1単語いくら」という積み上げ式の報酬体系でしたが、AIの登場でその前提が崩れました。
単価の下落と労働環境の変化
現在、多くの現場ではMTPE(機械翻訳ポストエディット)が標準となっています。これは、AIが出した下訳を人間が修正する手法です。
クライアント側は「AIが土台を作ったのだから、コストも時間も大幅に削減できるはずだ」と考え、従来の50%〜70%程度の単価設定を求めることが一般的になっています。

| 項目 | 従来の人手翻訳(HT) | ポストエディット(MTPE) |
|---|---|---|
| 想定単価(目安) | 100%(基準) | 50% 〜 70% |
| 求められる能力 | ゼロからの翻訳力・表現力 | 誤訳を見抜く監査力・修正スピード |
| 認知負荷 | 高い(創造的) | 極めて高い(AIのミスを探すストレス) |
AIの訳文は一見流暢に見えるため、間違いを見つけるにはゼロから訳す以上の集中力(認知負荷)が必要になる場合もあります。
作業は大変なのに報酬は下がるというジレンマが、業界全体の閉塞感を生んでいるのかもしれません。
DeepLの限界とAI翻訳特有のミスを分析
AIは非常に賢くなりましたが、それでも「DeepLの限界」を感じる場面は多々あります。
AIは統計的な確率で「もっともらしい言葉」を選んでいるだけで、内容を「理解」して責任を持って書いているわけではないからです。
ハルシネーションと情報の信頼性
特に注意が必要なのが、事実とは異なる内容を生成する「ハルシネーション(幻覚)」です。翻訳においても、原文にはない数字を捏造したり、肯定と否定を真逆に訳したりする致命的なミスが稀に発生します。
また、「主語が省略された日本語」の解釈ミスも、AIが頻繁に陥る罠です。こうしたミスは、専門知識を持つ人間がチェックしなければ、そのまま重大な事故につながる恐れがあります。

スタックの補足メモ
最新の技術動向を確認すると、AI翻訳の導入でプロセスが最大90%短縮されたというデータもありますが、それはあくまで「下書き」段階の話です。
最終的な品質保証(Quality Assurance)の重要性は、むしろAI時代の今こそ高まっていると言えます。 (参照:総務省『情報通信白書』)
通訳とAIの現状と今後に関する検証
通訳の分野でもAI化の波は止まりません。
スマホ一つでリアルタイム通訳ができるアプリは、旅行や簡単な日常会話であれば十分な実用性を備えています。しかし、通訳という仕事のの本質は「言葉の変換」だけではありません。
非言語情報の重要性
プロの通訳者は、話し手の表情、声のトーン、その場の「空気」までも読み取って訳出します。特にビジネス交渉では、相手を怒らせないような配慮や、あえて曖昧に訳すといった高度な判断が求められることもあります。
こうした「空気感の翻訳」は、数値化できない領域であるため、AIが人間に追いつくにはまだ時間がかかりそうです。

同時通訳がなくなると言われる領域と残る場
「同時通訳がなくなる」という説については、領域によってYESでもありNOでもあると言えます。
講演会や大規模なウェビナーなど、一方的な情報の伝達であれば、AIによる同時通訳が低コストで普及していくでしょう。
「責任」という最後の壁
一方で、裁判、医療、政府間の外交といった、一言のミスが人生や国家を左右する「High-Stakes(高リスク)」な現場では、人間が求められ続けます。
なぜなら、AIは自分の言葉に責任を取ることができないからです。「責任を負うのは人間である」という社会的・倫理的要請がある限り、プロの同時通訳者の席が完全に失われることはないでしょう。
AIに取って代わられる仕事、翻訳で生き残る道
では、AI時代に翻訳者が生き残るためには、どのような方向へ舵を切れば良いのでしょうか。キーワードは「AIとの共生」と「人間特有の付加価値」です。
翻訳者の生き残り戦略に必要な専門性と責任
これからの翻訳者に求められるのは、「何でも訳せます」という汎用性ではなく、「この分野なら誰にも負けない」という深い専門性です。
金融、医療、IT、特許、法務など、専門用語が飛び交い、高度な文脈理解が必要な分野はAIがミスを犯しやすい領域です。
監査役としての翻訳者
これからの仕事は「翻訳」から「情報保証(Audit)」へとシフトしていきます。AIが生成した訳文を精査し、専門知識に基づいてその正確性を担保する。
いわば「言葉の公認会計士」のような役割です。自らの名において品質を保証し、署名する。この「責任の引き受け」こそが、AI時代における最強の生き残り戦略になります。

AI時代に適応するためのリスキリングの要諦
語学力に加えて、今すぐ取り組むべきなのがITリテラシーへのリスキリングです。
AIを敵視して遠ざけるのではなく、自分の手足として使いこなすためのスキルを磨きましょう。
必須となる新スキルセット
- プロンプトエンジニアリング:生成AIから最適な訳文を引き出すための指示出し技術。
- CATツール(翻訳支援ツール)の習熟:TradosやMemsourceなどを使い、過去の翻訳資産(メモリ)とAIを連携させる能力。
- AIの特性理解:各AIエンジンの得意・不得意を見抜き、用途に合わせて使い分ける判断力。
AIを使いこなすことで、以前の数倍のスピードで低エラーな成果物を生み出せるようになれば、単価の下落を「圧倒的な生産性」でカバーすることが可能になります。

トランスクリエーションという創造的価値
AIが最も苦手とし、人間に大きなチャンスがある領域が「トランスクリエーション」です。
これは「翻訳(Translation)」と「創造(Creation)」を組み合わせた言葉で、主に広告やマーケティングの分野で重視されます。
文化の壁を越えるクリエイティビティ
例えば、英語のジョークをそのまま日本語に直訳しても、誰も笑いません。その場の状況やターゲットの文化背景に合わせて、全く別の言葉に「書き換える」ことで、原文と同じ感情を呼び起こす。
このプロセスには、高度な文化的センスとコピーライティング能力が不可欠です。統計的な処理で文章を作るAIには、この「読者の心を動かすための意図的な逸脱」ができません。

機械翻訳後のポストエディットという新標準
今後、実務翻訳の大部分はMTPE(ポストエディット)が占めることになります。
これを「ただの修正作業」と捉えるか、「AIという部下を管理する編集長の仕事」と捉えるかで、キャリアは大きく変わります。
MTPEにおけるスキル・アトロフィー(スキル退化)の懸念
AIの訳文ばかりを直していると、自身の「ゼロから文章を構成する力」が衰えてしまうリスクがあります。意識的にクリエイティブな執筆活動を行うなど、本来の翻訳力を維持する努力も必要です。
文化的背景を理解する人間ならではの役割
言葉の背後にある「コンテクスト(文脈)」や「社会通念」を理解することは、人間にしかできない高度な知的活動です。
日本語の「忖度」や「わびさび」といった概念を、ターゲット言語の読者に違和感なく伝えるには、辞書には載っていない生きた文化への理解が必要です。
「この表現は、今のこの国の社会情勢では不適切かもしれない」といった、倫理的・政治的な判断を含むローカライゼーションは、AIには判断できません。
翻訳者は、単なる変換者から、異文化コミュニケーションを円滑にする「文化コンサルタント」へと進化していくことが期待されています。
AIに取って代わられる仕事、翻訳の未来予測
2030年に向けて、翻訳という仕事は「AIに取って代わられる」というステージを過ぎ、「AIと人間が完全に役割分担をする」フェーズに入ります。
単純な情報の伝達はAIが担い、人間は「創造性」「専門性」「責任」が問われる高度な業務に特化していくでしょう。

AIの進化は脅威ですが、同時に「言葉の壁」がなくなることで、世界中でやり取りされるコンテンツの総量は爆発的に増えています。
翻訳者の仕事は「単語を置き換える作業」から、「言葉を通じて価値を届けるプロフェッショナル」へと、よりエキサイティングな方向へアップグレードされていくはずです。
この変化をチャンスと捉え、新しいスキルを積み上げて(SkillStack)いきましょう!

最後に
この記事で紹介した市場環境や単価などはあくまで一般的な目安です。
実際の業界動向は常に変化していますので、最新のキャリア形成については、JTF(日本翻訳連盟)の発表や、信頼できる翻訳会社などの情報を定期的にチェックすることをおすすめします。
最終的なキャリア判断は、ご自身の目標に合わせて慎重に行ってくださいね。
