SkillStack Lab 運営者の「スタック」です。
社内のペーパーレス化を進めようとしているのに、「現場が紙を手放してくれない」「新しいシステムを入れても結局エクセルに戻ってしまう」と悩んでいませんか。
ペーパーレス化が進まない原因は、単純に社員のITリテラシーが低いからとは限りません。
新しい仕組みにすると入力が増える、紙とデジタルを二重管理している、既存の業務フローとシステムが合っていないなど、現場から見れば合理的な理由で定着していないケースもあります。
私も元情シスとして、良かれと思って導入したシステムが現場に受け入れられず、結局以前の運用へ戻ってしまった経験があります。
この記事では、単に「紙をなくす方法」を紹介するのではなく、ペーパーレス化が止まる原因を整理し、現場の負担を増やさずに定着させる進め方を解説します。
この記事で分かること
- 社内のペーパーレス化が進まない主な原因
- 紙をなくすこと自体を目的にしてはいけない理由
- 経営層へ効果を数字で説明する方法
- Excel・VBAとSaaSを使い分ける判断基準
- 一部業務から安全にペーパーレス化する進め方
社内のペーパーレス化が進まない5つの原因
ペーパーレス化が定着しない企業では、「社員が変化を嫌っている」の一言では説明できない複数の問題が重なっていることが少なくありません。
まずはツールを探す前に、どこで止まっているのかを切り分けましょう。
新しいシステムの方が操作に時間がかかる
現場から「紙の方が早い」「Excelの方が使いやすい」と言われたとき、それを単なる抵抗と決めつけるのは危険です。
新しいシステムで入力項目が増えたり、1つの処理を完了するまでの画面遷移が増えたりしていれば、本当に以前より作業時間が伸びている可能性があります。
導入前には、次のような項目を実際に計測して比較してください。
- 申請1件を登録する時間
- 承認するまでに必要な操作数
- 差し戻し時の再入力範囲
- スマートフォンから操作できるか
- 必要な書類を後から検索する時間
「デジタルだから効率的」と考えるのではなく、現場の処理時間が本当に短くなるかで評価するのが重要です。
紙とデジタルの二重管理になっている
ペーパーレス化の移行期によく起きるのが、システムへ登録した後に「念のため紙も保管しておこう」となり、作業が二重になるケースです。
たとえば、紙の申請書を受け取り、PDF化し、システムへ登録し、さらに原本をファイリングしているのであれば、現場から見れば作業が減るどころか増えています。
ペーパーレス化=すべての紙をスキャンすることではありません。
最初からデジタルで受け付けられる申請はWebフォームへ変更する、取引先から電子データで受領した書類は電子データのまま扱うなど、紙が発生する前の工程から見直した方が効果的です。
ペーパーレス化の目的が共有されていない
「DXだから」「紙を減らすよう経営層から言われたから」という説明だけでは、現場にとって取り組むメリットが見えません。
たとえば目的を次のように具体化します。
| 曖昧な目的 | 現場に伝わりやすい目的 |
|---|---|
| ペーパーレス化する | 申請書を探す時間を減らす |
| DXを進める | 外出中でもスマホから承認できるようにする |
| システムを導入する | Excelへの二重入力をなくす |
| クラウド化する | 担当者不在でも必要な情報を確認できるようにする |
ツール導入ではなく、何分の作業を減らすのか、どの待ち時間をなくすのかまで決めることが大切です。
現場を巻き込まず全社一斉導入している
私も元情シス時代に、良かれと思って全社規模でシステムを導入したものの、現場の業務と合わず、以前の運用へ戻ってしまった経験があります。
システム上ではきれいなフローでも、実際の仕事には例外処理や部署ごとの事情があります。
その部分を確認せずに本番稼働すると、「入力が増えた」「このケースでは処理できない」といった問題が稼働後に噴き出します。
全社導入前に、実際にその業務を担当する社員へ触ってもらい、不便な箇所を修正する工程を入れてください。
紙をなくすこと自体がゴールになっている
紙には、一覧しやすい、複数の資料を並べやすい、手書きで確認しやすいといった利点もあります。
そのため、「紙は悪、デジタルは善」という考え方で一律に廃止する必要はありません。
重要なのは、紙を何枚削減したかではなく、処理時間、検索時間、転記回数、承認待ち時間、ミスの件数などが改善したかです。
IPAが公表した「DX動向2026」でも、国内企業ではDXやAIの成果が業務効率化・迅速化を中心としており、さらに企業価値の向上へつなげることが課題とされています。
ペーパーレス化の効果を数字で可視化する
経営層へ導入効果を説明するなら、「紙が減ります」ではなく、現在発生している作業時間を人件費へ換算した方が判断しやすくなります。
一般的な平均値ではなく自社の時間を測る
「会社員は年間○時間書類を探している」といった外部の平均値をそのまま自社へ当てはめる必要はありません。
1週間だけでも構わないので、対象部署で実際に発生している時間を測定した方が、はるかに説得力があります。
| 測定対象 | 確認する内容 |
|---|---|
| 検索 | 紙・共有フォルダから書類を探す時間 |
| 転記 | 紙やメールからExcelへ入力する時間 |
| 承認待ち | 申請から決裁までの時間 |
| 修正 | 入力ミスや転記ミスの修正時間 |
| 保管 | 印刷・スキャン・ファイリングの時間 |
人件費に換算すると経営層へ説明しやすい
損失額は、次の式でシンプルに計算できます。
対象人数 × 1日あたりの無駄時間 ÷ 60 × 年間稼働日数 × 時間単価
たとえば50人が1日10分、書類検索や転記に使っており、年間240日、時間単価を3,000円と仮定すると、年間コストは約600万円です。
これは「一般企業は600万円損している」という意味ではありません。自社の実測値を入れるための試算例です。
導入後も同じ指標を測定すれば、システム投資に対してどれだけ時間を削減できたのかを確認できます。
ペーパーレス化と電子帳簿保存法を混同しない
経理書類をペーパーレス化するときは、電子帳簿保存法との関係も確認しておきましょう。
ここで注意したいのは、電子帳簿保存法が「会社の紙をすべてなくしなさい」と定めているわけではないことです。
国税庁では、電子帳簿等保存制度を「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」に分けて案内しています。
特に電子メールやWebサービスなどを通じて取引情報を電子データで授受した場合には、一定の要件に従ってその電子データを保存する必要があります。
参考:国税庁「電子取引関係」
SaaSを契約しただけで法令対応が完了するわけではありません。
対象書類、保存方法、検索方法、権限、社内運用などが自社の要件に合っているかを確認する必要があります。税務上の判断が必要な場合は、国税庁の最新情報や税理士などの専門家へ確認してください。
Excel・VBAとSaaSはどちらを選ぶべきか
ペーパーレス化の記事では「ExcelやVBAをやめてSaaSへ移行すべき」と単純化されがちですが、実務では適材適所です。
ExcelやVBAが向いている業務もあれば、専用システムへ移した方が安全な業務もあります。
| 判断項目 | Excel・VBAでも対応しやすい | SaaSを検討したい |
|---|---|---|
| 利用者 | 1人〜少人数 | 複数部署・全社 |
| 業務停止時の影響 | 手作業で代替できる | 給与・請求・勤怠など停止影響が大きい |
| 承認 | 不要・単純 | 複数段階・権限管理が必要 |
| 変更履歴 | 厳密な監査不要 | 誰が変更したか記録したい |
| 法制度への対応 | 影響が小さい | 法改正への継続対応が必要 |
| 外部連携 | ほぼ不要 | 会計・給与・CRMなどと連携したい |
個人の集計表まで無理にSaaSへ置き換える必要はありません。
一方、複数人で共有し、担当者の異動後も長期間利用し、重要データを扱う仕組みをExcelマクロだけで支える場合は、保守や属人化も含めて検討する必要があります。
Excel管理そのものの限界やクラウドツールとの使い分けについては、バックオフィス向け脱Excelツールの比較記事でも詳しく整理しています。
ペーパーレス化を失敗させない5つの進め方
1.まず1つの業務だけ選ぶ
最初から「全社の紙をなくす」という目標を立てる必要はありません。
まずは次の条件を満たす業務を1つ選びます。
- 社内だけで完結する
- 処理件数が一定数ある
- 現在の手間を計測しやすい
- 失敗しても事業への影響が小さい
- 改善効果を現場が実感しやすい
備品購入申請、名刺発注、社内問い合わせなどは、小さく試しやすい候補です。

2.導入前の作業時間を記録する
システム導入前に、1件あたりの入力時間、承認日数、転記回数、月間処理件数などを記録します。
導入後に同じ数字を測れば、「便利になった気がする」ではなく、実際の成果で評価できます。
IPAのDX調査でも、日本企業ではDXの成果を把握するための指標設定が課題として指摘されています。導入前にKPIを決めておくことは、ペーパーレス化でも有効です。
3.実際の利用者に触ってもらう
製品を選定する人だけでデモを確認して終わらせないことも重要です。
実際に申請する社員、承認する上司、後からデータを確認する管理部門まで、それぞれに操作してもらいます。

特にスマートフォンを使う現場では、PC画面だけで判断しない方がよいでしょう。
4.紙とデジタルの終了条件を決める
テスト期間中に旧運用を併用するのは問題ありません。
ただし、「いつまで紙を残すのか」を決めずに開始すると、二重管理が常態化します。
たとえば「1か月試行し、処理時間とエラー件数を確認した後に本運用へ切り替える」といった終了条件まで最初に決めてください。
5.効果が確認できてから対象部署を広げる
1つの部署で効果が出たら、そこで初めて他部署へ展開します。
「総務部で月20時間削減できた」「承認に平均2日かかっていたものが当日中に終わるようになった」といった自社の実績は、外部の成功事例より説得力があります。
問い合わせ管理をExcelから移行する具体的な判断基準については、問い合わせ管理をExcelで続ける限界と移行手順も参考にしてください。
経費精算のように法制度や証憑管理が関係する業務については、経費精算をExcelで続ける場合の注意点とSaaS移行手順で詳しく解説しています。
社内のペーパーレス化が進まないときのまとめ
社内のペーパーレス化が進まないときに、「社員が変化を嫌っているから」と考えてしまうと、本当の原因を見落とします。
- 新しいシステムの方が操作に時間がかかっていないか
- 紙とデジタルの二重管理になっていないか
- 何のためにペーパーレス化するのか共有されているか
- 現場の利用者を導入前の検証へ参加させているか
- 効果を測る数字を決めているか
この5点から確認してみてください。
ペーパーレス化の目的は、紙をゼロにすることではありません。
必要な情報へ早くアクセスでき、転記や承認待ちを減らし、担当者が変わっても同じ手順で業務を進められる状態を作ることが重要です。

Excelを残す部分と専用システムへ移す部分を切り分けながら、小さく検証していくのが現実的です。
会計・勤怠・問い合わせ管理など、バックオフィスでExcelから移行しやすいツールをまとめて比較したい方は、次の記事も参考にしてください。
